Farce
休みの前日、華の日曜
日も長くなってきたけれど
流石に閉店時間には日も完全に暮れ
夜の帳が下り始めていた
ぶらりと行き付け田中水産の前に立つとガラス扉の向こうに
いつものカウンター陣
カウンターのボランチ事K選手
カウンターのオフサイドポジションS選手
並んで座っている
いつもの風景ならばここにもう２．３人座ってるところだが
今日はこんな感じか
と扉を開ける
ちょうど死角でカウンターの１番端に見慣れぬお客が座っていた
ちょうどいつもの２人とひとつ空けて見慣れぬお客
その間に滑りこむ
すると早速S選手が
「あちら新規ですよ、ちょっと生意気なんです」
コソコソと最年少カウンター常連は鼻息荒い
こっちはこの店のレセプションから通い
様々なカウンターのお客を見てきている
そして、田中水産、田中選手改め田中監督の布く布陣で
先発を張り続ける最長選手だ
ちょっとやそっとの客じゃ動じる事もない
そして新しい常連が増える事もあれば
また転勤などで去っていく常連も見送ってきている
今のカウンター陣ではK選手、海外移籍でポジションをあけることが多々
お陰でカウンターの安定感が失われてる
僕はいつものペースで呑み始める
生は２杯、その後焼酎か、日本酒、そのどちらも杯数制限を決め
S選手は新規のお客が気になるようで
チラリチラリと窺っているのが横目に入って来る
僕はK選手と何気ない会話を始め
それにS選手が合いの手と身を削った滑るギャグを打ち込む
そこに、何気なく会話に入って来る新規さん
すると、S選手熱り立つ
「常連Talkに簡単に入れると思うなよ～、ねぇあらきさん」
Babyfaceが僕に同意させ責任転嫁させる王道のテク
縦社会で身についたのだろう
新規さんはニヤリと不敵な笑みを浮かべてる
僕は「そんなの関係無いでしょ（笑）どちらにお住まいなんですか？」
尋ねると、新規さん
「以前住んでまして、また帰って来まして」
多くは語らないが、会話に入りたい感じはある
僕は店の西武ライオンズ好きのバイトと今日の結果に盛り上がる
「いや～勝ったね～今年は菊池雄星調子いいね～」
すると、新規さん「秋山やばいっす」
「あら？西武ファン？」
「いえいえ、以前住んでたんでちょっと知ってるのとまたこっちに帰って来たから」
その後も西武Talkは続くがチョイチョイ入って来る
その入り方が、昔からいる常連、いや・・それ以上の雰囲気を出して
なるほど、これがS選手をいらだたせる原因か
最年少で下っ端だったところに
新規が来た、歳は関係なく自分よりカウンターでは下だぞ
と、行きたかったがあっさり飲み込まれたんで（笑）
若いな（笑）
僕は、「今日はどうしようかな～、日本酒にしてK選手に付き合うか
焼酎にしようかな～んん～焼酎かな～」と店の人と話してると
新規さん「日本酒、八海山下さい」と間髪入れず
ん？挑戦的だな
「じゃあ～俺も日本酒にするか、飛露喜ちょうだい」
新規さんに注がれる八海山を見てると前には積み上げられた皿
随分食べてるな・・
「結構前から来てたの？」
「いや～、お客さんの２０分くらい前ですよ」
それにしては・・焼鳥の串の本数・・
「もう焼き鳥はひと通り食べたから何食べようかな」
ポツリと
まだ食べるんだ
すると店の方が「お名前なんて仰るんですか？」と尋ねると
「田中です」
ほぉ～、カウンター陣も店の方も何かの縁を感じ
店の方「ここ田中水産って今日はいないんですが社長は田中なんですよ」
「あ、そうなんですか、僕やきとりたっくんの提灯しか見てなかったっす
魚はあんまり好きじゃないんすよね」
これにはカウンター陣もイラッときた
なぜならこの店は田中水産で、今年の四月から
店の中にやきとりたっくんを入れ２枚看板にしたので
もともと魚好きが集まる店
それをよそに新規の田中さんは「何食べるかな～」
等と気にする素振りもないどころかあまり好きじゃないという
魚を次々に頼む
そしてかなり早いペースで日本酒をおかわりしていく
思わずペースを崩され杯数制限を超える
そこへK選手「河豚の白子天ぷら～お願い」と頼むと
新規の田中さん「じゃ、僕も」
そういえばさっきから常連カウンター陣が頼むと被せてイラつかせてくる
K選手も複雑な顔
「まぁまぁ、見てて下さい流石に向こうはお腹いっぱいなはずですから」と僕は小声で伝え
「鰻の白焼お願い～」ニヤリと頼む
「あ、それ僕も、で、ポン酢柚子胡椒にして下さい」
と好きでないはずの魚にこれでもかとアレンジメニューを加えてくる
「じゃ、俺も・・それにして」あっちのペースに飲み込まれてる・・
まじか？どんだけ食って、呑むんだ
「あ、肉味噌きゅうり」っておい！
積み上げられた皿の枚数見たことがない
そしてこっちが日本酒5つ呑む間に9つ呑んでる
唖然と見てる間に、あっという間にお酒を空け次を注文
「これでここのお酒はあと1つだな」ニヤァ～っと
「何なんだこいつ？何が狙いだよ」
「このままじゃ、日本酒全種行くぞ」
常連カウンターはヒソヒソと話し合う
その間にも、鰻は片付け日本酒は空けられてく・・ゴクリ
そして最後に飛露喜を頼み、あっという間に飲み終わる
僕が田中水産に来て1時間の惨劇
常連カウンター陣は粉々に打ち崩される
そして「お勘定お願いしま～す」
１時間ちょっとで会計は1万円近くまで行ってた
カウンター陣は度肝を抜かれた
この店でこんな短時間で
ましてや1人でこの値段いった奴は初めて見た
カウンター陣のプライドはズタズタだ
すると、「いつまで茶番続けるんすか（笑）？担々麺哲さん皆んなで行きましょうよ（笑）」
って「おい！お前が茶番やってるから付き合ってやったのに、何なんだこれ？」
そうこの新規さん、田中水産田中選手
僕が行ったらカウンターで呑んでて
皆んな新規のノリで小芝居してるから付き合ったのに
「で？何でこんな小芝居してたの？」って僕が尋ねると
「僕が普通に呑んだら短時間でどれ位いくか見たかったっす（笑）」
だって・・
勿論その間他のお客さんもいて
で、お客さんもいなくなったし担々麺哲行きましょうとなり
皆んなで店を出る
僕はちょっと早いけど帰るかと担々麺哲の前を素通りしようとすると
「呑めないのか～？！負け犬になるぞ～（笑）」田中選手
「新規に言われてますよ～（笑）」S選手
「分かったよ行くよ、新規になんか負けるわけ無いだろ（笑）」僕
「あの新規さん化けもんやから無理して付き合うと大変ですよ（笑）」K選手
そして茶番は四川担々麺哲さんを巻き込んで夜中まで繰り広げられ
次の日の朝8時から行うパブリックビューイングin田中水産に行くと宣言してた
新規、いや田中選手の姿はなかった・・・二日酔いだな
2015年7月9日
